2009/06/24
A Capella / Singers Unlimited 1971

 元ハイ・ロウズのジーン・ピュアリングを中心に1967年に結成された男性3人女性1人のコーラス・グループが1971年にリリースしたタイトル通り全曲『ア・カペラ』(無伴奏コーラス)のアルバム。所謂『ア・カペラ』のアルバムは色々聴いてきましたが、シンガーズ・アンリミテッドの多重録音を駆使した複雑でありながらそれを感じさせない美しいコーラス・ハーモニーは群を抜いたものがあります。1曲目の女性のソロ・ヴォーカルから始まる『青春の光と影』で透明感溢れるコーラス・ハーモニーが加わるところを聴いただけでも心がとろけてしまいそうになってしまいますが、その美しい歌声を10曲も聴くことができるのですから、こんなに幸せなことはありません。これは人間の歌声が持つ美しさと魅力を改めて思い知らされるアルバムです。 BACK

2009/07/03
Twin Best / ヒカシュー 1999

 1979年にシングル『20世紀の終りに』でデビューした巻上公一率いる日本のバンド、ヒカシューの80年代前半までの代表曲30曲を収録した2枚組ベスト盤。デビュー当時のヒカシューは所謂テクノ・ポップのバンドとして分類されていましたが、確かにリズム・マシーンやテクノ的なシンセ音を使用しているものの、巻上公一の書くシュールな歌詞や個性的な歌唱もあり、近未来的でありながらも60年代後期のアングラでカオスな雰囲気が渦巻く唯一無二のバンドとして屹立していました。このアングラでカオスな雰囲気はヒカシューが元々アンダーグラウンドな劇団出身ということもあるのかもしれませんが、初めて彼等の曲『プヨプヨ』を聴いたときの衝撃は未だに忘れられません。YoutubeにUpされているこの映像を見れば、彼等がいかに異形のバンドであったかが良くわかると思います。
 残念ながらヒカシューの初期の作品は現在廃盤状態でなかなか入手することができませんが、これは日本の音楽シーンにおいて大いなる損失としかいいようがありません。現在入手できるCDが輸入盤のベストだけというのは、あまりにも情けない話ですので、ぜひともこの2枚組ベストくらいは再発して欲しいものです。 BACK

2009/08/03
honoka / 遊佐未森 2001

 国立音楽学校出身のシンガー&ソングライター、遊佐未森の14枚目のアルバム。1994年にナイトノイズと作り上げたミニアルバム『水色』以降、ケルト・ミュージックのエッセンスを取り入れることが多くなった遊佐未森ですが、このアルバムにもあのチーフタンズのパデイ・モロニー等ケルト・ミュージックのミュージシャン達が参加しています。しかし、ただ単に形式としてケルト・ミュージックを取り入れているのではなく、遊佐未森自身がプロデュースし、ほとんどの曲で作詞作曲をしているこのアルバムではすでに自らの血肉としているような印象を受けます。楽器のアレンジ面では羽毛田丈史の手を借りている曲があるもののの、コーラス・アレンジは全曲とも遊佐未森自身が行っており、これが彼女のデビュー以来の魅力のひとつである浮遊感のある歌声を上手く活かしており、聴いていて実に気持ちが良いんですよね。パデイ・モロニーも参加している2曲目の『I'll Remembr』を含めメロディーの美しい曲が多く、個人的には今まで買った遊佐未森のアルバムの中ではこのアルバムが一番好きですね。ちなみに6曲目の『月夜の浜辺』で朗読している詩は、中原中也の同名の詩です。 BACK

2009/08/09
Night Divides The Day / George Winston 2002

 ジョージ・ウィンストンのピアノ・ソロによるドアーズのカヴァー・アルバム。
 ジョージ・ウィンストンといえば、1980年代に一大ブームとなったニューエイジ・ミュージックの中核を担ったウィンダム・ヒルの中心的ミュージシャンであり、そのジョージ・ウィンストンが何故ドアーズのカヴァー・アルバムを...と不思議な気がしますが、実は彼はドアーズの大ファンで、インタビュー等で「特にドアーズからは強い影響を受けた」と語っているそうです。もっとも、彼のそのまでのアルバムのサウンドからはドアーズからの影響ってあまり感じられないんですけれどね。
 それにしても、アルバム・タイトルは『ブレイク・オン・スルー』の歌詞の一部だし、ジャケットはまさに『ライダーズ・オン・ザ・ストーム』そのものだし、これだけでもジョージ・ウィンストンのドアーズに対する愛情がひしひしと伝わってきます。当然ながら演奏の方も手抜きはありません。『ハートに火をつけて』のギター・ソロまでピアノで弾いてしまうという遊び心というかマニア心を見せつつも、基本的にはあくまでもジョージ・ウィンストン自身のスタイルでドアーズの曲を演奏しており、それ故にドアーズの曲の持つメロディーの美しさやポップさが伝わってきます。 BACK

2009/08/13
Tala Matrix / Tabla Beat Science 2000

 ビル・ラズウェルのプロデュースによるタブラとドラムン・ベース、ブレイク・ビーツ、テクノを融合させたプロジェクトのアルバム。タブラを叩いているのは世界的なタブラ奏者であるザキール・フセイン。ドラムン・ベース、ブレイク・ビーツ、テクノといった部分はあくまでも隠し味というか香辛料として取り入れられているだけで、中心となるのはあくまでもザキール・フセインによるタブラの演奏です。タブラはインドの打楽器ですが、指や手のひらを駆使することによって、とてもたった二つの打楽器から出ているとは思えない多彩な音を出すことができます。それがザキール・フセインのような一流の奏者の演奏ともなれば、これはもうとうてい人間技とは思えません。
 このアルバムは、ドラムン・ベース、ブレイク・ビーツ、テクノといった香辛料を効果的に使用することによってインド音楽に親しみのない人達にも魅力的に聴こえるサウンドとなっているのですが、それはやはりビル・ラズウェルの手腕によるものでしょう。2曲目の『Magnetic』におけるインド音楽とレゲエのミクスチャーなんか、いかにもビル・ラズウェルらしいじゃないですか。なおラストの『Alla』では約12分にわたるザキール・フセインのタブラ独奏を聴くことができます。  BACK

2009/08/24
Sgt.Hetfield's Motorbreath Pub Band / Beatallica 2007

 ビートルズの曲をメタリカ風に演奏するという、バンド名そのまんまのアルバムです。Beatallicaそのものは以前ネット上でその音源を聴いたことがありますが、まさか本当にメジャー・デビューしちゃうとは...。しかし、パロディーもここまで本格的にやられてしまうと、これはもう笑って(良い意味で)聴くしかありません。もっとも、ビートルズの曲をそのまま演奏しているわけではなく、曲名や歌詞をいかにもそれ風に改変しているのですが(例えば『Lady Madonna 』が『Leper Madonna』に、『Taxman』が『Sandman』に(しかもアレンジは『Enter Sandman風!)等々)、どの曲からもBeatallicaのビートルズとメタリカ双方にに対する深い愛情が感じられるから、下手なパロディーにありがちな嫌味が少しも感じられません。もちろん演奏の方も本格的だし、ヴォーカルなんか、メタリカのジェームスに吃驚するほど良く似ています。
 こういうバカバカしいことを真剣にやる連中って、私大好きです。 BACK

2009/09/05
Fool's Mate / Peter Hammill 1971

 孤高のシンガー、ピーター・ハミルがヴァン・ダー・グラフ・ジェネテイターの初回解散後にリリースした初のソロ・アルバム。ピーター・ハミルという人は英国プログレ界の代表的シンガーであることは間違いありませんが、この初のソロ・アルバムには(あの時代の)所謂プログレ的な大曲は収録されておらず、3分前後のシンプルな曲がメインとなっています。ある意味ピーター・ハミルのアルバムの中で最もPOPなアルバムと言っても過言ではないかもしれません。その中には『Inperial Zeppelin』や『Sunshine』のようなロック・バンド編成による曲もありますが、このアルバムの一番の魅力は、狂おしいまでに美しいメロディーをギターやピアノをメインとしたアコースティックなサウンドをバックに表現力豊かに歌い上げる曲にこそあるのです。
 個人的には『Vision』『Happy』『The Birds』『Solitude』は、初めてこのアルバムを聴いた1980年以来ずっと変わらぬ愛聴曲ですが、もっと個人的な話をすれば、1980年に手酷い失恋をした時にもっとも心に染みた曲...という苦い思い出も込みなんですけれどね。 BACK

2009/10/23
Ben Folds Live / Ben Folds 2002

 ベン・フォールズがベン・フォールズ・ファイヴ解散後の2002年に行ったピアノ・ソロ・ライヴを収録したアルバム。
 ピアノの弾き語りというと、しっとり静かで穏やかな演奏という印象がありますが、ベン・フォールズは、1曲目の『One Angry...』や2曲目の『Zak And Sala』のピアノを弾くというよりは鍵盤を叩き付けるような演奏で、彼が最も敬愛するミュージシャンであろうエルトン・ジョン(このアルバムでも『Tiny Dancer』をカヴァーしています)と同じピアノ1台でロックができるミュージシャンであることを、しっかりと示してくれます。もちろん、バラードも素晴らしいことは言うまでもありませんけどね。
 ピアノ・ソロ・ライヴというくらいですから、全曲ピアノ1台で歌っているのですが、最後まで中だるみすること無く聴かせてくれるのは、なんといっても1曲1曲のメロディーのスペックが高いのが一番の理由です。逆にピアノ1台のシンプルな伴奏だからこそ、メロディーの素晴らしさが際立つんですけれどね...。また、観客にコーラスを歌わせたり、観客のリクエストに気軽に答えたりと、ミュージシャンと観客の間の一体感が極めて高いとのもソロ・ライヴならではの魅力と言えるかもしれません。 BACK

2009/10/27
Knnillssonn / Nilsson 1977

 ニルソンが1977年にリリースしたRCA時代13枚目のアルバム。全米最高位108位と商業的には成功したとは言い難い作品ですが、ニルソン自身はこのアルバムを生前最後のインタビューにおいて自身のベスト・アルバムにあげているんですよね。全曲を自作曲で固めたこのアルバムは、ニルソン本来の持ち味であるグッドタイム・ミュージック的な部分と(詩の内容はかなり辛らつですが(^^:)、『夜のシュミルソン』に通じる優雅なストリングスが見事に融合していて、確かにベスト・アルバムにあげても不思議ではない内容となっています。特に2ndシングルにもなった『想いは君だけに』はニルソンのベスト・ソングのひとつと言っても過言ではないくらいの名曲です
 なのに、何故このアルバムが売れなかったのかのかといえば、これはもう時代が悪かったとしか言い様がありません。というのも、このアルバムがリリースされた1977年はパンク勃興の年であり、世間の衆目はもっぱらこのパンクという新しく激しいムーヴメントに集まっていたのです。それ故このアルバムのような趣味は良いけれど地味なアルバムが埋もれてしまったのも、仕方がないことなのかもしれません。正直私自身もニルソンはすでに全盛期を過ぎた過去の人というイメージを持っていましたしね(^^:)。
 ちなみに、このアルバムのジャケットを手掛けているのは、ビートルズの『リヴォルヴァー』のジャケットを手掛けたクラウス・ヴーアマンです。 BACK