『阿久津将臣シナリオ』終了。
これは法月将臣の若き頃,まだ阿久津将臣だった頃の物語です。
正直言って,『ヒロイン編』はネタとしては楽しめたものの,物語としてはと物足りなくて,ちょっとガッカリだったのですが,この『阿久津将臣』編は,さすが本作のメインだけあって,大いに楽しませていただきました。
登場するヒロインは一人,雑賀みぃなだけですが,この娘,誰かに感じが似ているな...と思ったら,夏咲に雰囲気が似ているんですよ。初めて出会った場所も同じだしね。もちろん,彼女も義務(『私生活を認められない義務』)を負わされた被更正人です。それにしても,将臣の名前を聞いたときの反応が「素敵なお名前ですね」ってマルチですか?(^^;)。
その代わり,裏ヒロインというか,ダーク(いやあれはブラックだな(^^;)・ヒロインと言える存在がいるのですが,それが今回の特別高等人最終試験の試験官,法月アリィです。この異民出身の特別高等人は,見た目がまなに似ているところもあったため,極悪非道に見えるけれど,実は......と思っていたんですが...(^^;)。
当然ながら森田賢一の父親である若き日の樋口三郎も登場します...しかも,賢一と同じジュラルミン・ケースを持って。この当時三郎が何歳だったのかわかりませんが,将臣とともに学園に編入させられるくらいですから,20歳前後だったのではないでしょうか?なのに,この頃すでにある女性との間に璃々子が生まれていたというのだから...いやぁ大したもんです(^^;)。
そして,この時三郎が捨てられていたのを拾い,将臣,みぃな,三郎の3人で『健』という名前を付けた子どもが,後の森田賢一だったのです。なるほど,将臣にとって賢一は,亡き親友の遺子というだけの存在でなかったのですね。
それにしても,法月アリィは恐ろしい。
『車輪の国,向日葵の少女』で法月将臣がとった冷酷で無慈悲な言動は,まるでアリィを真似したかのようです。そういや,アリィが冷酷モードに入ったときの口調が,法月のとっつあんみたいで...う〜む,こんなところまで影響を受けているんですね。
元々がロリな風貌と体型であるだけに,その言動とのギャップの大きさが,逆に法月アリィの恐ろしさを際立たせています。あまりにもアリィのキャラが強烈過ぎるが故にヒロインであるみぃなの影が薄くなっているような気も...
全般的なシナリオは『車輪の国,向日葵の少女』を下敷きに(主として『4章』『5章』)書かれています。
法月アリィが将臣と三郎以外の受験者を容赦なく撃ち殺したり,
盗聴マイクによって将臣の行動がすべて筒抜けだったり,
特に逆襲をしたつもりが,実はそれすら読まれて3人が地下牢に入れられた辺りから,将臣がアリィの慢心を付いてアリィを捕らえるあたりまでは,『車輪の国,向日葵の少女』と良く似た展開となっています。
「弱さという種に,暴力という水を撒いて,慎重に,花を愛でるように,時間をかけてゆっくりと,貴様らを更正させてやる」というアリィの台詞は,法月将臣が『車輪の国,向日葵の少女』でほとんどそのまま使っていますしね....いや,実際は逆なんだけれど(^^;)。
しかし,あえてここまで同じにしたのは,この後の展開の違いをはっきりさせるための布石のようなものだったのです。『車輪の国,向日葵の少女』において,将臣の元に下らず最後の最後まであきらめなかった賢一と,この物語でみぃなを助けるためとはいえ,法月アリィに屈してしまった将臣。
法月将臣の「私は止まり,健は進んできた,それだけのことだ」という言葉がそれを端的に言い表しています。
『車輪の国,向日葵の少女』の失敗でそれまでの権威や権力を大きく失ってしまった法月将臣ですが,しかし,最後の最後で彼は阿久津将臣へと戻ったのです。
強制収容所の廃止に伴い収容者の抹殺が決まったとき,その収容者の中にみぃなの名前を見つけた将臣は,単身みぃなの身柄を奪還しに行きます。
しかし,強制収容所で彼を待ち受けていたのは,多数の警備兵を引き連れた法月アリィ。ここまで将臣の行動を読んでいるとは...恐るべし!法月アリィ。
「バカなことはやめろ」と言うアリィに対して
「そこをどけ,豚共,私はこれから最愛の人に会いに行かねばならんのだ」と阿久津将臣が叫んだところでThe
End。
いやぁ〜,法月のとっつぁんの漢っぷりがなんとも格好いいエンディングでした。
ところで,アリィなんですが,彼女は阿久津将臣の事を本当に気に入っていたんじゃないかと思うんですね。愛していたと言っても良いかもしれません。しかし,生い立ちと挫折が原因とはいえ,あそこまで性格が捻れ曲がってしまうと,そんな自分の気持ちにも素直になれないのではないでしょうか?
そうでなければ,いくら将臣へ才能を高く評価したとはいえ,「自分の籍に入れ(つまり夫婦になる)」なんてことは言わないと思うのです。それに,あれだけ簡単に人を殺す彼女が,何度も反逆されながらも将臣を決して殺そうとはせず,最後の最後まで自分のモノにしようとしたのは,こりゃもう愛以外の何ものでもないでしょう...かなり歪んでますけれどね(^^;)。
そう考えると,アリィのみぃなに対する仕打ちは嫉妬の一種なのかもしれませんね。あえてみぃなを将臣と同じ地下牢に入れたのは,それによってみぃなの欠点を将臣に見せつけることにあったのかもしれません。そうすれば,将臣にみぃなのような家柄だけで何も無い女よりも,異民の娘でも優秀な私を選ぶはずだ...という思惑があったのでしょう。もし,簡単にみぃなを殺していたら,将臣からは恨まれるだけですからね。
だから,みぃなから想定外の逆襲を受けたときに,あれほどまでにも感情的な言動をとったのだと思います。
それでは何故,あえてみぃなと将臣をくっつけるような真似をしたかというと,ただ単に将臣を籍に入れるだけではつまらないので,その前にドラマを作って楽しみたいと思った...いや,もしかしたら,自分自身が普通の恋愛ができない人間だと知っているから,盗聴器を通してみぃなと将臣の恋愛を疑似体験として楽しんでいたのかもしれません。
そういえば,ラストの場面で単身みぃなの身柄を奪還しに来た将臣の前に現れたときも,アリィにしてみれば自分を裏切った存在である将臣を殺そうとはせず,「バカなことはやめろ」と止めているんですよね。彼女ほどに計算高い人間ならば,法月将臣が特別高等人最終試験に失敗した時点で彼を切っているはずです。それなのに,南国の総督という重要な地位にありながらわざわざ将臣の前に現れたということは...やはりアリィにとって将臣は大切な存在なのだと考えてもおかしくはないでしょう。
う〜む,もしかしたら法月アリィって女性は,ある種のツンデレなのかもしれませねんね...かなり歪んでいますが(^^;)
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