無邪気な日々の終わり...。
主人公,郁美の元に6年ぶりに帰ってきた母。
だが安らかな日々は長く続かない。
怪死を遂げる母。
悲しみをふっきるために,郁美は母がいた宗団
”FARGO”の隔離施設へと潜入する。
だがそこは,心の奥底の痛みと邂逅する場所であった
郁美はふたりの仲間とともに,施設での過酷な生活の中,
真実を追い求め始める。
すべてを知ったとき胸に抱いているものは,
始まりか,それとも終わりか
それぞれの痛みを抱いて,
戦い続ける少女たちの,長い旅の始まり....。

<解説書より>

 

『MOON.』は『One』『Knon』『Air』といった大ヒット作品を作り続けている現Key制作スタッフによるいわば処女作のような作品で,1997年にTacticsから発売されました。
 私がこのゲームの存在を知ったのは,『Air』関連の掲示板で,「『Air』は『One』『Knon』の流れではなく,どちらかといえば『MOON.』に近いゲームである。」という書き込みを見たからであり,それからしばらくして『もういちど君に逢いたい』という廉価版シリーズで再発となったのを期に買ってみました。

 ゲーム形式としては,場面場面で行動又は台詞を選択するというごく普通のアドベンチャー型ですが,このゲームが特徴的なのは,主人公が男性ではなく,女性だということです。つまり,プレイヤーが女性でない限り(又はそういう趣味の男性でない限り),主人公に感情移入することはできないということで,これは所謂18禁ゲームにあってはとても珍しいパターンではないかと思います。
 『Air』において,主人公が途中から傍観者となるために感情移入しにくいという批判(不満)を良く目にしましたが,実はこのときからすでに主人公に感情移入しにくい(させない)作品を作っていたのですね。

 ヒロインとなる女性は主人公天沢郁美を含めて巳間晴香名倉由依の3人ですが,それぞれ別個にシナリオが進むのではなく,3つのシナリオが平行して,時には重なり合って進んでいきます。そのため,True Endに達するためには3人とも救われなければならず,これがなかなか難しかったりします。シナリオは全般的にダークなものですが,会話によっては後の作品に通じるテンポの良いギャグの応酬も見られます。

 はっきり言って,このゲームはその後の『One』『Knon』『Air』といったゲームと比べると,グラフィック,シナリオ,音楽等すべてにおいて劣っています。しかし,まったくつながりがないかといえばそんなことはなく,後の作品のプロトタイプ的な面が多々見られます。
 たとえば登場人物を見てみれば,天沢郁美は川澄舞,巳間晴香は七瀬留美,名倉由依は上月澪,鹿沼葉子は里村茜,少年は国崎往人を彷彿とさせるものがありますし,またそれぞれが心に傷を抱えているところや,大きなテーマのひとつとして『家族』があるところ等多くの共通点を見つけることができます。
 細かなところでは『Air』においてアイテムのひとつとして出てくるなまけもののぬいぐるみが,『MOON.』でも出てくるのですが,これは偶然ではなく,意識して登場させているのでしょう。

 比較として適当かどうかは意見が分かれるところかと思いますが,えねま的にはLeafにおける『雫』にあたるゲームだと思っています。

 余談になりますが,このスタッフによる作品の中では,本作が一番18禁的要素が高いですね(^^;)。
 そうそう,このジャケットの絵,どこかで見たことあるな,と思ったら,エヴァンゲリオンでエンディング・テーマ(Fly Me To The Moon)が流れるときのバックの絵柄なんですね,これが...

 

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