
一癖あるキャラクターたちが繰り広げる
二転三転するストーリー。
四の五の言わせない六月公演『だまされてボルシチ』は
七面鳥もビックリの89分間!ギャグ+スリル満載のクライム・コメディー!!
これはお客様に送ったDMの文面です。
第一作の『歌う幽霊』がノスタルジックな世界を描いたコメディーなのに対して、
全く雰囲気の異なるものにしようというコンセプトからスタートした第二作の『だまされてボルシチ』は、DMでも遊んでみました。
ギャグ+スリル の‘+’ が、「プラス」と数字の「十」を掛けてあるのにはあまり気付いてもらえなかったようです。
ひょんなことから莫大な遺産を相続した主人公。彼の財産をねらって集まって来た詐欺師たちが争奪戦を繰り広げる。だましたはずが引っかけられ、裏切ってみると罠だった。そして・・・
といったストーリーで、舞台は主人公の部屋になります。が、ただの部屋ではつまらないので、“抽プレグッズ”で埋め尽くすことにしました。(「缶についてるシールを5枚集めて送るとコートが当たる!」とかいうアレを、“抽選によるプレゼントグッズ類”、略して
“抽プレグッズ”と言うそうです。)
と簡単に書いていますが、グッズを集めるのにどんなに苦労したか!
まず友人知人に片っ端から聞いて回る。さらにその友人知人の友人知人に聞いてもらう。知り合いのCM業界関係者に頼み込む。飲みたくもないジュースをガブガブ飲んで、シールをためて応募する。「抽プレグッズマニアの全国組織」に入会してオークションに参加する。(インターネットが普及してない時だったので、電話と郵便を駆使するかなり面倒なものでした)
とにかく大変だった...。
入手にしたグッズの一部です。
・おもちゃの缶詰
昔からの人気グッズで保有者が意外と多く、角形缶2個・丸形缶5個
が集まった。
おもちゃの缶詰に2種類あるなんて知らなかった。
・KIRINウーロン茶「鳳凰」タロットカード
野際陽子扮する姑が新妻の鈴木保奈美をいじめる連続ドラマ風CMで一世を風靡した。
あの時期、大量に流れていたのですが、覚えてる人は少ないかも。
・GEORGIAがんばってコート
飯島直子が一気にブレイクしたCM。応募総数の記録はいまだに歴代一位。
・日清ラーの道、ラーあったか半てん
背中に「ラー」と染め抜いてある、あったかい半てん。全く文字通りのネーミング。
・ampmバーガークッション
ハンバーガー型の巨大クッション。大きさは小錦くらい。
伸ばすと寝袋に早変わり。伸ばした長さはジャイアント馬場くらい。
それを天王洲アイルから阿佐ヶ谷まで電車で、一人で運んだ。
・住友銀行BANKOOどこでもざぶとん
・同じくBANKOO忘れ物撲滅壁掛け
・永井真理子コンサートツアースタッフジャンバー
・Doleカラフルデイバッグ
・三ツ矢サイダールパン三世グラス
・キリンレモンドラエモングラス
・クロ猫ヤマトの黒猫ぬいぐるみ
など(計83点)
これほど苦労して集めたグッズを舞台に漫然と並べておくのはもったいないので、
‘グッズ陳列スペシャルエリア’を作ってカーテンで隠しておきました。そして劇中、
主人公が詐欺師たちに自分のコレクションを紹介すべくカーテンをさっと開けると、
毎回、客席から「おお〜」という歓声が上がりました。苦労が報われる瞬間です。
お客さんにばれないように、出演者全員でガッツポーズしたものです。
『だまされてボルシチ』は、タイトル通り“ボルシチ”が重要な役割を果たします。
(ちなみにボルシチとは、肉・ジャガイモ・ニンジンなどを煮込む、代表的ロシア料理です。念のため。)
ことの起こりは、作家の山下の一言、「ぷぅ〜んとおいしい香りのする客席ってのはどうだろう?」でした。
早速、実験です。
ボルシチなんか誰も作ったことがありませんから、レトルトのボルシチを探しました。
しかし、スーパー、デパート、食料品店、どこにもレトルトのボルシチは売ってないのです。今はわかりませんが、その頃はレトルトのボルシチは生産されてなかったのです。
そして遂に輸入食料品店で、ロシア製のレトルト・ボルシチを発見しました。
「СИЕЙЛМЧФ」こんな文字の並ぶ、なぜか熊が五匹の鮭を口いっぱい頬張っている絵の、
怪しげな製品です。温めて試食しました。一口食べて...
マズい!食えたもんじゃありません。
「ロシア人の舌は腐ってるの?」「いや、ロシアでも売れないから日本に流れてきたんだ」議論白熱です。
それより問題なのは、においがほとんどしないのです。
結局、レトルト・ボルシチ本来のすさまじい味をわからなくする為、10倍以上に薄め、
においの素となる各種香辛料・香草を大量に加え、特製ボルシチを完成させました(具まで作るのは大変だったので、ジャガイモだけはたっぷり入ったレトルト・ボルシチも利用しました)。
香りに加えて、味もなかなかいけるので、劇中でお客さんにも振る舞おうということになりました。
そして迎えた初日。
お芝居の始まる3時間前から舞台裏でボルシチをぐつぐつ煮始めました。
楽屋にいてもいい香りがしてきます。好評間違いなしと、喜んでいたのもつかの間、
ボルシチのかなり濃厚でエグい香りが楽屋に充満していき、頭がガンガンしてきました。
お客さんに喜んでもらうためだと4人の出演者が必死で耐えていると、
「早くボルシチを煮始めて下さい」と客席にいるスタッフが催促するではありませんか。
劇場の構造上、においのすべてが楽屋に流れ込み、客席には全く届いていなかったのです。
こうして‘客席いい香り作戦’は失敗に終わりました。
もう一方の‘お客さんにボルシチ振る舞う作戦’は大成功でした。
ベランダに寄ってきた猫にボルシチを食べさせる設定にして、客席の最前列をベランダということにしたのです。
「今日は猫がたくさん来てるなぁ。どの猫に食べさせようかな」などと白々しく言いながら客席に降りていくと、
「私に食べさせて」と目で訴えかける若い女性がいらっしゃったので、迷わず彼女に振る舞いました。
彼女のノリの良さはバツグンでした。
ただ「おいしかった?」と聞くと、うれしそうに「はいっ」と答えて下さいましたが、
「ニャー!」と言って下されば100点満点だったのになぁ...惜しいっ!
2日目以降もこのシーンは楽しくやることができました。
では、最後に公演当日のパンフレットに掲載した‘ごあいさつ’です。
僕のオジサンは詐欺師でした。
東海道新幹線ができたばかりの、今から20数年前。
「将来開業が決定した、みちのく新幹線の路線予定図を
首相秘書をしている兄から極秘で入手した。今、その土地を買っておけば、何十倍、いや、何百倍になるかわからない」そんな手口だったそうです。
僕をかわいがってくれたオジサンは儲けると必ずご馳走してくれました。
「ちょっと行くか」が決まり文句で、白の麻スーツにパナマ帽でビシッと決めて、
川向こうの駄菓子屋に連れてってくれます。
チクロやら合成着色料の固まりのようなアメやゼリーをたらふく食べて、僕は最高の幸せでした。
でも今考えると、優しく律儀な割にはせこいオジサンです。せめて、おもちゃぐらい買ってくれても・・・。
羽振りの悪い時ものんきなものでした。
冬でもランニング一枚で街をブラブラし、知り合いを見つけては
「あらっ、タバコ銭が足りないや。ちょっと80円だけいいかな」と言ってました。
いわゆる‘寸借詐欺’ですが、せめて500円とか1000円と言えないところが、
人がいいというのか、せこいというのか、オジサンらしいところです。
小学生だった僕には、何をしてる人なのかわかりませんでしたが、
パリッとした時と、薄汚れた時が周期的に訪れるオジサンを僕は大好きでした。
そんなオジサンもいつしか姿を見せなくなり、今は音信不通です。
東北新幹線も開通してしまい、どこで何をしてるのでしょう?
僕が詐欺師のお芝居をやることを知ったら、何て言うんだろうなあ・・・。
本日はご来場ありがとうございます。
ごゆっくりお楽しみ下さい。
これを読んで「あれ?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。前回の『歌う幽霊』の
‘ごあいさつ’が「つづく」で終わっていたからです。もちろん、つづきの‘波瀾万丈ごあいさつ’は準備していたのですが、「初めて見るお客さんも大勢いらっしゃるから」との理由で、泣く泣く断念したのです。
1997年6月5日〜6月8日
作・山下まさる、演出・堤泰之(プラチナ・ペーパーズ)
出演・鬼界浩巳、寺十吾、三浦勇矢、橋本きよみ
【おまけ】ちょうどこの時期、地元で開催された高校総体の委員を幼なじみがやっていて、「パンフに載せる広告が集まらないんだ。なんでもいいから頼む」と泣きつかれ、出した広告の文面です。
祝!平成9年度高校総体
<クイズ>さて、鬼界浩巳事務所とは一体、何をしているところでしょう?
1.インターハイを応援する、法律事務所
2.高校総体を応援する、謎の国際組織
3.京都大会を応援する、舞妓さんの会社
正解は秘密ですが、いずれにせよ
鬼界浩巳事務所は出場選手を精一杯応援しています。
頑張れ、みんな!
クイズのホントの答えを知りたい方は鬼界浩巳事務所へFAXをお送り下さい。
こんな広告がよく認められたものです。幼なじみはかなり叱責されたそうですが...。
ちなみにFAXは1通も来ませんでした。