2007/01/10
ハチポチ / 坂本真綾 1999

 収録されている楽曲ががアニメやゲームの主題歌で,歌っているのが声優...となれば,オタク向けのアルバムと思われても仕方ありませんが,これはそれだけに留めておくには実にもったいないアルバムなのです。何しろ,POPミュージックとしての完成度が極めて高いんですよね。それもそのはず,収録されている全曲の作曲及びプロデュースを『攻殻機動隊』等の音楽で知られる菅野よう子が担当しているのです。随所にバグパイプブルガリアン・ヴォイスといったワールド・ミュージック系のサウンドを折り込んだり,分厚いストリングスやコーラスを導入するあたりはいかにも菅野よう子のサウンドだなぁ...という感じですが,アニメやゲームの主題歌が中心ということもあり,メロディーはこの上もなくPOPなんですよね。そしてそのPOPなメロディーに坂本真綾の素直で透明感のある歌声が実にぴったりとはまるのです。また,収録されている曲も軽めのPOPからワールド・ミュージック風の曲までヴァラエティーに富んでいますが,その中でもプログレといっても違和感のない壮大な曲『Light Of Love』には圧倒されてしまいました。これは変な先入観さえなければ,色々な音楽を聴いてきた人ほど楽しめるアルバムだと思いますね。 BACK

2007/02/13
ニコパチ / 坂本真綾 2003

 坂本真綾が2000年から2003年にかけてリリースしたシングルを中心に選曲されたコンピ盤。1999年までの曲を収録した『ハチポチ』と比べると,歌唱力が著しく向上したことが良くわかります。といっても,デビュー当時が下手だったわけではありません。当時から他の同年代の歌手と比べると間違いなく上手い歌い手ではあったのですが,やはり若さ故の表現力不足は否めませんでした。しかし,このアルバムでは全曲の作曲とプロデュースを担当している菅野よう子が作り出したマザーグースのような不可思議な曲から優麗なバラードまで見事に歌いこなしています。収録されている曲にアコースティック主体の曲が増えているのも,坂本真綾の歌唱力の向上に伴うものなのかもしれませんね。また,英語詞の曲も6曲収録されているのですが,それらも名前を明かさずに聴かされたら,イギリスの女性シンガーの曲ではないかと思うくらいに自然なんです。
 それにしても,これだけ完成度の高い音楽が収録されているアルバムが,一般的に評価されていないのは,おそらく声優が歌っているアルバムという認識が強いせいもあるのでしょうが,実にもったいない話です。とわいえ,このジャケットはないよなぁ...これじゃぁ『声優が歌っているオタク向け』アルバムと思われても仕方がないかもしれません(^^;)。 BACK

2007/02/25
Obscure Alternative / Japan 1978

 ジャパンが音楽的にもきちんと評価されるようになったのは,ラスト・アルバムとなった『Tin Drum』からであり,それ以前,特にVirgin移籍以前は完全にアイドル扱いでした(とはいえ,人気があったのは日本だけだったんですけどね(^^;)。話によると,デヴィッド・シルヴィアン自身も初期の2枚は無かったことにしたいようなんですが,だからといって1978年にリリースされたこの2ndアルバム(邦題『苦悩の旋律』)が愚作であるかといえば,そんなことはありません。ジャパンの最高作は間違いなく『Tin Drum』ですが,私が一番好きなジャパンのアルバムは,当時から現在に至るまで,ずっとこの『苦悩の旋律』なんですよね。
 1978年といえば,PUNK全盛期であるとともに,Heavy Metalの新しい波が起きた時代なのですが,彼等の創り出したサウンドはそのどちらでもなく,デヴィッド・シルヴィアンのヌメヌメとしたヴォーカルと,ミック・カーンの不思議なベースを中心に,すでにジャパン独自の世界を確立していたのです。特にラストの『The Tenant』はVirgin移籍後のアルバムに収録されていても違和感のないインスト・ナンバーです。 BACK

2007/03/07
Looking Back - The Pye Anthology / West Coast Consortium 2003

 バンド名に『West Coast』と付くので,一見するとアメリカ西海岸出身のバンドかと思ってしまいますが,実は1967年にデビューした英国産バンドなんですよね。これは彼等が1967年から1970年にかけてPyeからリリースしたシングルのA面B面16曲に未発表音源11曲を加えたコンピ盤です。サウンドの方はいかにもあの時代らしいサイケデリックな香り漂うハーモニー中心のカラフル・ポップ・ミュージックなのですが,彼等が他のバンドと一線を画しているのは,当時からメロトロンを導入しているところです。Moody BluesSimon Dupree & the Big Sound(後にGentle Giantに発展)のように当時からメロトロンを導入しているバンドはありましたが,彼等のようなPOP系のバンドでメロトロンを導入しているケースは珍しいのではないでしょうか。
 ちなみに,彼等にとって最高のヒット曲となった『All The Love In The World』(全英22位)は日本でも『世界の恋はキミのもの』(いかにもあの時代らしい邦題ですね)という邦題でシングル・カットされています。もっとも,ヒットしたかどうかはわかりませんけれどね。 BACK

2007/03/15
Running Jumping Standing Still / Korner / Murphuy 1969

 Bonnie Raittの1stアルバムのプロデューサーであるJohn Murphy (Piano,Bass,Vocal)と同アルバムに収録されている『I Ain't Blue』(このアルバムにも収録)の作者である"Spider"John Koerner (Guitar,Vocal)の二人が1969年にリリースしたアルバム。これは1993年に発売25周年としてリイシューされたものです。もっとも,このCDを買ったときにはこの二人がどういうミュージシャンであるか全然知らないまま,ただ1969年にリリースされたアルバムであり,ジャケットに何か心惹かれるものがあったという,それだけの理由で(もちろん安かったということもありますが(^^;)買ってみたのですが,これが大当たりでした。
 Folk,Country,Blues,Rcok'n'Roll,Jazz等多様なアメリカン・ミュージックが渾然一体となったサウンドも魅力的ですが,何よりもメロディーが実にPOPで良いんですよ。そのメロディーが持つオールドタイム・ミュージック的な味わいは,同時期のNilssonに通じるものを感じます。 BACK

2007/04/03
The Cars / Cars 1978

 ボストン出身のモダン・ポップ・バンド,Carsの曲の中で私が一番好きな曲といえば,間違いなく『Let's Go』(2ndアルバムに収録)ですが,一番好きなアルバムとなると,これが1978年にリリースされた彼等の1stアルバムである本作品『The Cars(邦題「錯乱のドライブ/カーズ登場)』なんですよね。ハード・ロックな武装をしたディーヴォがリヴァプール・サウンドを演奏しているといいますか,当時初めてこのアルバムを聴いたときに,新しくて懐かしいという不思議な気持ちになったことを覚えています。しかし,このアルバムの魅力は,なんといっても全編に満ちあふれているクールなPOPさにあるのです。いやほんと,どの曲をシングルにしても良いくらいの名曲揃いなんです。アルバムとしての完成度からいえば1984年にリリースされた『Heartbeat City』の方が勝りますが,こと『POPさ』という面から見れば,本作が一番だと思いますね。
 ちなみに,これは本作『The Cars』に14曲のDemo&Liveヴァージョンが収録されたCDを付けて1999年にリリースされたDeluxe Edition盤ですが,このDisc2に収録された音源を聴けば,Carsのサウンドがデビュー盤制作以前に,ほとんど確立されていたことが良くわかります。 BACK

2007/04/25
Close To You / Carpenters 1970

 初の全米No.1ヒットとなった『(They Long To Be)Close To You』(邦題は『遥かなる影』)が収録された2ndアルバム。実のところ,1970年代において,カーペンターズは一般的な人気はあるけれど,ロック・ファンからは「つまらんポップス」としか思われてなかったんですよね。白状しますと,私もその一人です。何しろリチャードがアレンジをしていたことすら知らなかったくらいですから...いやほんと,お恥ずかしい限りです。この2ndアルバムでもすべての曲のオーケストラを含めたアレンジをリチャードが,コーラスを含めたすべてのヴォーカルをカレンリチャードの二人が行っているのですが,この洗練されたソフト・ロックの鏡のようなサウンドをまだ20代の二人(カレンは20歳になったばかり)が作り上げたと思うと,いやはや,この兄妹の才能の深さには頭が下がります。
 ただ,このアルバムは短期間で作られたということで,カーペンターズ・ファンからは後の完璧主義的サウンドと比べると完成度が低いとの評価もあるのですが,しかし,それ故にカーペンターズのイメージから異なるサウンドも聴くことができるんですよね。特にラストの『Another Song』の中盤からの展開なんか,こりゃもうプログレと言って良いくらいです。 BACK

2007/06/22
23時の音楽 / Kanno Yoko feat. Sakamoto Maaya 2002

 2002年にNHKで放送された連続ドラマ『真夜中は別の顔』のサントラ盤。収録されている曲はすべて菅野よう子が作曲及びプロデュースをしているのですが,ジャズ,ワールド・ミュージック,ニュー・エイジ,エレクトリカ,フォーク,クラシック等々,とても同じアルバムに収録されている曲とは思えない多彩なサウンドで,このCDに収録されている音楽だけを聞いて,これがNHKドラマのサントラだと想像できる人がどれだけいることでしょう?これは,TVドラマ本編を見ていなくても十分に音楽アルバムとして楽しめるCDなのです。
 そして,このアルバムでヴォーカルを担当しているのが,この当時の菅野よう子ワールドの歌姫である坂本真綾です。坂本真綾のソロ・アルバムでは彼女の年齢やキャラクターを考えた曲作りをしている菅野よう子ですが,このアルバムでは坂本真綾の歌声すらも菅野よう子が作り出すサウンドの一部となっています。しかし,それだけに純粋に坂本真綾のヴォーカリストとしての魅力が出ているんですよね。
 このCDを聴いても,やっぱり
菅野よう子の曲には坂本真綾のヴォーカルが一番合ってるし,坂本真綾のヴォーカルには菅野よう子の曲が一番合っていると思うので,いずれ近い内に,またこの二人で作り上げたサウンドを聴かせていただきたいものですね。 BACK

2007/07/05
Viva Wisconsin / Violent Femmes 2005

 1983年にデビューしたアメリカの3人組バンド,ヴァイオレント・ファムズが1998年に地元ウィスコンシン州で行ったアコースティック・ツアーでの演奏を収録したライヴ盤。シンプルなコード進行の曲をシンプルなアコースティック編成で演奏しているにもかかわらず,聴く者を魅了するのは,ヴァイオレント・ファムズライヴ・バンドとしての技量が優れていることは当然として,やはり曲そのものが魅力的だからなんでしょうね。解説によれば,収録されているのは彼等の代表的な曲ばかりということですが,さもあらんという感じです。また,曲によってはThe Horns Of Dilemmaの演奏が加わるのですが,彼等の時としてフリーキーなサウンドが良いアクセントとなっています。解説書にはメンバーの一人と思われる人物が何故か虚無僧姿で写っていますが,元々彼等は路上で大道芸もやっていたそうなので,ステージでもそういった要素を取り入れているのかもしれません。
 ところで,メンバーの一人であるBrian Ritchieって,どこかで聞いた名前だなと思ったら,このアルバムの人だったんですね。 BACK

2007/07/08
ごはんができたよ / 矢野顕子 1980

 矢野顕子の存在は1976年のデビュー当時から知っていましたが,「確かに凄いミュージシャンだよなぁ」と思いつつも,何故か今一つ琴線にふれるものがなかったんですよね。それ故,彼女が徳間ジャパンからMIDIに移籍後にリリースしたこのアルバムにもさほど興味も期待もなかったというのが,当時の正直な気持ちです。ところが,1曲目の『ひとつだけ』を聞いてぶっとんじゃいました。こりゃもう琴線に触れるなんてもんじゃありません。魂を奪われるというのはこういうことなんだなぁ...と,しみじみ思いましたね。サウンドは当時どちらかとえいば苦手な部類であったYMO風のサウンド(そりゃメンバーが演奏しているんだから当たり前です)だったのですが,それも全然気にならず,逆に,このアルバムに収録されている矢野顕子のヴァージョンを聴いてYMOの曲(『Tong Poo』)の良さに気が付いたくらいです。
 そして,タイトル・ナンバーである『ごはんができたよ』。メロディーもさることながら詞が良いんですよねぇ。詞で泣かされた曲ってこれが初めてです。しかも,この詞は歳を重ねるにつれてますます心に染みてくるんですよね。
 追伸。現在では初期の矢野顕子YMOも好きですよ。 BACK